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最高裁判所第二小法廷 昭和45年(オ)1117号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人中野富次男、同木川恵章の上告理由について。

上告人と訴外株式会社三伸との間の請負契約において、代金の支払と引換えに建物所有権を移転する旨の約定がなされたものとは認められないとした原判決の事実認定は、証拠関係に照らして肯認することができる。そして、建物建築の請負契約において、注文者の所有または使用する土地の上に請負人が材料全部を提供して建築した建物の所有権は、建物引渡の時に請負人から注文者に移転するのを原則とするが、これと異なる特約が許されないものではなく、明示または黙示の合意により、引渡および請負代金完済の前においても、建物の完成と同時に注文者が建物所有権を取得するものと認めることは、なんら妨げられるものではないと解されるところ、本件請負契約は分譲を目的とする建物六棟の建築につき、一括してなされたものであつて、その内三棟については、上告人は訴外会社ないしこれから分譲を受けた入居者らに異議なくその引渡を了しており、本件建物を完成後ただちに引き渡さなかつたのも、右三棟と別異に取り扱う趣旨ではなく、いまだ入居者がなかつたためにすぎなかつたこと、上告人は請負代金の全額につきその支払のための手形を受領しており、それについての訴外会社の支払能力に疑いを抱いていなかつたこと、上告人は、右手形全部の交付を受けた機会に、さきに訴外会社の代理人として受領していた右六棟の建物についての建築確認通知書を訴外会社に交付したことなど、原判決の確定した事実関係のもとにおいては、右確認通知書交付にあたり、本件各建物を含む六棟の建物につきその完成と同時に訴外会社にその所有権を帰属させる旨の合意がなされたものと認められ、したがつて、本件建物はその完成と同時に訴外会社の所有に帰したものであるとする趣旨の原判決の認定・判断は、正当として是認することができないものではない。論旨引用の判例は、右のような合意の認められる本件とは事案を異にし、適切でなく、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上朝一 裁判官 色川幸太郎 裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄)

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